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大分地方裁判所 平成8年(行ウ)1号 判決 1998年1月27日

大分県中津市一六六五番地

原告

中津商業株式会社

右代表者代表取締役

信田孝一

右訴訟代理人弁護士

川口晴司

大分県中津市殿町二丁目一四二五番二号

被告

中津税務署長 谷口利夫

右指定代理人

富岡淳

瀬名波廣

畑中豊彦

池田和孝

森敏明

吉良輝昭

星野光賢

鈴木吉夫

福浦大丈夫

川口洋範

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が原告の平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の法人税について平成五年一二月六日付けでした更正処分及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告の法人税確定申告において、原告が第三者に譲渡した不動産の譲渡利益を原告の取得価額が九〇〇〇万円であることを前提に算定したのに対し、被告が、右取得価額を七〇〇〇万円と認定し、これに基づいて法人税の更正及び重加算税の賦課決定をしたのは、原告の所得を過大に認定したもので違法であるなどとして、原告が被告に対して右各処分の取消を求めたものである。

一  争いのない事実

1  原告は、被告に対し、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告において、申告所得金額〇円(欠損金額一四一三万三〇二五円)、土地譲渡利益〇円、還付金の額に相当する税額四万七六九四円として、平成四年五月二九日に確定申告書を提出した。

2  被告は、原告が、平成三年六月一四日に有限会社コーシュー(以下、「コーシュー」という。)に九五〇〇万円で譲渡した大分県宇佐市大字四日市字大地添一四六五番一、同所一四六五番六、同所一四六五番七及び同所一四六五番一四の各土地(面積合計四六一・四平方メートル)並びに同所所在の建物(以下、右各土地と建物を併せて、「本件土地等」という。)の取得価額九〇〇〇万円のうち二〇〇〇万円が架空であるとして、平成五年一二月六日付けで所得金額を五八六万六九七五円、土地譲渡利益金一八九五万六〇〇〇円、差引所得に対する法人税額七二三万三六〇〇円(納付すべき税額七二八万一二〇〇円)とする更正(以下「本件更正」という。)並びに重加算税額を二五四万八〇〇〇円とする重加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)を行った。

3  原告は、本件各課税処分について、平成六年二月四日に原処分庁である被告に対して異議申立てを行ったが、被告は、同年四月二八日に同申立てを棄却した。さらに、原告は、同年五月二〇日に国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は、平成七年一一月一三日付けで審査請求を棄却する旨の裁決をした。

二  争点

原告による本件土地等の取得価格は、九〇〇〇万円、七〇〇〇万円のいずれか。

(原告の主張)

1 原告主張の要旨

原告が、平成二年一〇月一九日、宮本隆(以下「宮本」という。)から本件土地等を購入した取得価額は九〇〇〇万円であった。しかし、宮本は、譲渡所得の課税負担を免れるため、原告に対し、売買代金額を七〇〇〇万円に圧縮した売買契約書の作成を申し入れたので、売買契約書並びに代金の領収書などの書類には、原告の取得価額が七〇〇〇万円と表示された。被告は、税務調査の際、原告から、本件土地等の取得価額が九〇〇〇万円であってそのことを裏付ける資料があると主張されたにもかかわらず、七〇〇〇万円と表示された売買契約書等の書類や帳簿だけを証拠に採用し、原告の主張を裏付ける記載がある帳簿、伝票や関係者の説明を無視したため、原告の本件土地等の取得価額を誤って九〇〇〇万円と認定した。

2 本件売買契約に至る経緯

宮本は、平成二年八月ころ、不動産仲介業者の川島巌(以下「川島」という。)の仲介で、宇土良治(以下「宇土」という。)に本件土地等を代金九〇〇〇万円で売り渡す契約を締結し、手付金一〇〇〇万円を宇土から受領した。その際、宮本の要望により、税金対策の趣旨で、表面上は代金を七〇〇〇万円にした。その後、宇土から右契約を引き継いだ同人の兄宇土一紀(以下「一紀」という。)が資金繰りに窮したため、宇土の義弟の岩田秀機(以下「岩田」という。)が原告代表者の信田孝一(以下「信田」という。)に対し、手付金を失うことなく本件土地等を確保するために原告がこれを購入するように依頼した。その際、信田は、岩田に対し、今年度の決算(平成三年三月末日決算)までに、一紀に原告から本件土地等を買い取らせるか、それができないときは、岩田が斡旋して別の買主に買い取らせることを約束させた。その後、岩田が、売主側の仲介人の川島を原告に紹介したが、その際、川島は「売買の条件は前のときと同じで、裏が二で表が七です。」と言って、代金額は九〇〇〇万円であるが書類上は七〇〇〇万円にした圧縮契約を用いることを条件にし、原告はこれに応じた。

3 本件売買契約締結と代金授受の状況

原告は、売買代金九〇〇〇万円を用意するために、平成二年一〇月一九日、日新信販株式会社(以下「日新信販」という。)から、九〇〇〇万円を原告の口座に振込送金する方法で借り入れた(甲一、二、乙三の1)。そして、同日、原告は、前記の圧縮契約の外形を作るため、表面に出す七〇〇〇万円を小切手にし、裏金の二〇〇〇万円を現金にして、宮本宅で支払った。すなわち、原告側からは、津留寿生(原告の取締役。以下「津留」という。)、坂本敏彦(信田が経営するアクルス株式会社の企画部長。以下「坂本」という。)及び元重克子(原告の経理担当者。以下「元重」という。)の三名が宮本宅に赴いて、同宅の二階で、宮本に対し、川島の立会いのもと、額面七〇〇〇万円の小切手と現金二〇〇〇万円を渡した。その際、津留が七〇〇〇万円の領収書と二〇〇〇万円の領収書を要求したところ、宮本から「信田さんから二〇〇〇万円のことは聞いていませんか。話がついとるんじゃないですか。」と言って断られ、七〇〇〇万円の領収書だけをもらった。原告側の三名は、宮本と売買契約書を作成したが、その代金額は、約束どおりに表に出す七〇〇〇万円と書かれた。右の金銭の授受が終わったころ、川島が手配していた司法書士と豊和銀行宇佐支店の銀行員が現れたところで、原告側の三名は宮本宅を出た。

4 原告がコーシューに本件土地等を転売した経緯

原告が本件土地等を購入した数か月後に、一紀の資金計画が最終的に破綻した。その後、岩田は、原告に約束した年度末までの買戻しを実行できないままであったので、信田が約束を果たすよう再三要求した結果、岩田が経営するコーシューが、平成三年六月一四日、代金九五〇〇万円で本件土地等を買い受けた。

5 原告及びコーシューの帳簿、伝票処理の経緯

(一) 原告が、平成二年一〇月一九日、日新信販から本件の取得金額に相当する九〇〇〇万円を借り入れたので、元重は、同日付でその旨の振替伝票を作成した(乙三の1)。

(二) 原告が宮本に支払った九〇〇〇万円については、表に出す七〇〇〇万円のほかに裏の二〇〇〇万円があったので、元重は、帳簿処理に苦慮してしばらく放置していた。しかし、年度末の決算が近づいたので、元重は、表に出してよい七〇〇〇万円を支出したことだけでも記帳しておこうと思い、平成三年一月九日付けで原告の普通預金口座から宮本に対して仮払金の名目で七〇〇〇万円を支払った旨の同日付け振替伝票を作成した(乙三の2)。しかし、同日、原告の普通預金口座から七〇〇〇万円を出金した事実も、同日、宮本に対し、七〇〇〇万円を支払った事実もない。

(三) 平成三年三月末日の決算報告書に、本件土地等を事業用土地として載せなければならなかったので、元重は、それに合わせるため、平成三年三月三〇日、前記七〇〇〇万円の仮払金を事業用土地の取得費に振り替えた旨の同日付け伝票を作成した(乙三の3の1)。

(四) 元重は、裏に回す二〇〇〇万円について、長い間処理に苦しんだが、年度末の決算までには処理する必要があったため、平成三年三月三〇日、原告の大分銀行中津支店の普通預金口座から日新信販に対し、借入金の返済として二〇〇〇万円を支払った旨の同日付け振替伝票を作成した(甲三)。元重は、この振替伝票の作成日欄に、宮本に売買代金を支払った日である平成二年一〇月一九日を手書きしたが、思い直してこの部分を削除した上、同欄に平成三年三月三〇日のゴム印を押した。しかし、二〇〇〇万円は、平成二年一〇月一九日に七〇〇〇万円と同時に宮本に支払われており、平成三年三月三〇日に原告の普通預金口座から二〇〇〇万円を出金した事実も、同日、日新信販に二〇〇〇万円を返済した事実もない。

(五) 原告は、平成三年六月一四日、コーシューに本件土地等を代金九五〇〇万円で売却した。元重は、前年度の決算報告で取得原価を七〇〇〇万円と偽って帳簿処理していたので、真実の取得価額が九〇〇〇万円(これに登記費用等の七三万七八〇〇円が加わる。)であったことに整合させるため平成四年三月三一日、日新信販から二〇〇〇万円を借り入れ、宮本に対して本件土地等の取得費として二〇〇〇万円を支払った旨の振替伝票を作成した。これに伴い、元重は、右同日、本件土地等の取得原価九〇七三万七八〇〇円、売却益四二六万二二〇〇円をコーシューから受領した代金九五〇〇万円に振り替える旨の同日付け振替伝票を作成した(甲四)。

(六) 以上のように九〇〇〇万円を出金した後、原告の経理担当者の元重は、九〇〇〇万円の帳簿処理に難儀して、振替伝票にいくつか矛盾した記載を載せた。仮に宮本の主張のように代金として支払った金額が七〇〇〇万円であったとすれば、元重が矛盾した振替伝票を作成する理由も必要なかったはずである。元重がこのように帳簿処理に苦しんだ理由は、代金が九〇〇〇万円であったのを七〇〇〇万円に圧縮した売買契約書の作成に原告が応じさせられたことにあるとしか想像することができない。

(七) 他方、岩田は、原告の取得価額が九〇〇〇万円であったが、売主の要請で外形を七〇〇〇万円に装ったことを知っていたので、原告から購入した価格を九五〇〇万円にした決算報告書を税務署に出せば、その線から原告に対して売却益が過大に認定されることになりかねないと考え、平成三年度の決算(平成四年二月末日)において、コーシューが購入した価格を八〇〇〇万円と偽り、差額一五〇〇万円を原告側に対する仮払金であるとした決算報告書を宇佐税務署に提出した(甲五)。

(八) 元重は、平成四年三月末日決算の確定申告書を被告に提出したとき、本件土地等の取得原価につき、前年度の確定申告では七〇〇〇万円と記載したが、真実は九〇〇〇万円である旨の文書を添付した。その後の平成四年六月初めころ、宇佐税務署の国税調査官が原告方を訪問し、元重に対し、「初め七〇〇〇万円で買ったと申告していたのに、後になって九〇〇〇万円で買ったと訂正しているのはなぜですか。」と尋ねたので、元重は、前記の経緯を説明した上、求めに応じて同じ説明内容の文書を提出した(甲六)。

6 本件土地等の購入価格が七〇〇〇万円であるとする被告の主張に沿う証拠として、宮本及び川島の各証言並びに金額七〇〇〇万円の売買契約書と同額の領収書が存在する。このうち、売買契約書と領収書については、原告は、売買契約を締結した当時、代金が九〇〇〇万円であったのに、宮本の要請に応じて七〇〇〇万円と金額を圧縮した契約書、領収書が作成されることを了承したのであるから、真実の金額が記載されたと推定することはできない。次に、宮本は、代金決済の際に原告から受領した金員は現金七〇〇〇万円だけであったと証言する。しかし、原告が宮本に対して渡した金員に七〇〇〇万円の銀行保証小切手が含まれていたのであり、そのことは、右小切手が存在し(甲一〇)、代金決済があった平成二年一〇月一九日に右小切手が宮本の取引銀行に持ち込まれ、即日、七〇〇〇万円全額が宮本の口座に入金された事実から明らかに認められる。そうすると、宮本が原告から受領した金員には、右小切手の他に、現金二〇〇〇万円があったかどうかを確定しなければならないところ、以下に述べるとおり、宮本が手にした代金には、小切手の他に現金二〇〇〇万円があったと認めなければならない。

(一) 宮本が代金決済の日に支払った現金一五一六万円の出所は、原告が宮本に提供した現金の他にはなかった。宮本は、原告から代金全額の支払を受けた直後に一紀に手付金返還として現金一三〇〇万円を支払うとともに、川島に仲介手数料として現金二一六万円を支払ったと証言し、川島もこれに符合する証言をしている。宮本は、右現金合計一五一六万円は代金決済の時に原告から受け取った現金七〇〇〇万円の中から出したと説明するところ、その七〇〇〇万円というのは現金ではなく小切手であったことは、前述したように疑いがないのであるから、宮本の説明は破綻する。右小切手は、代金決済のあった日に豊和銀行中津支店で換金されて、同じ日に右小切手の額面に相当する金員が出金されて同銀行宇佐支店の宮本の口座に振替入金になったが、その時期は原告から右小切手を受け取り、これを同銀行中津支店に持ち込んで換金手続をした後になるのであるから、宮本が宇土や川島に現金一五一六万円を支払った時点では、いまだ小切手が換金されていなかったと認められる。したがって、宮本が支払った現金一五一六万円の出所は、原告が提供した現金二〇〇〇万円の他に考えることができない。

(二) 原告が宮本に支払った右七〇〇〇万円の小切手の他に現金二〇〇〇万円について明確な出所がある。すなわち、直接には代金決済に立ち会った原告の従業員津留及び元重の各証言があるが、他にその客観的な裏付けとして、原告が九〇〇〇万円を代金決済があった日に親会社である日新信販から振込を受けたこと(甲一、二)及び九〇〇〇万円を取引銀行において七〇〇〇万円の小切手と現金二〇〇〇万円に分けて出金したこと(甲一、一〇)があげられる。被告は、原告と借入先である日新信販の関係が極めて密接であり、借入金の額の増減も容易に可能であると推認できるなどと主張するが、原告と日新信販の関係が密接であるからといって、日新信販が原告に九〇〇〇万円を貸し付けた事実は、甲第一、第二号証のとおり、銀行振込の方法で九〇〇〇万円の授受があったことと、九〇〇〇万円を借り入れた旨の振替伝票(乙三の1)を原告が作成したことによって認められる。被告がいうように、借入金の増減が容易に可能である、とは決していうことができない。むしろ、原告は、売主の依頼を容れて代金額を七〇〇〇万円と表示した売買契約書の作成に応じた上、これに合わせて代金支払後に社内で作成した振替伝票や貸借対照表に代金額を七〇〇〇万円と記載したのであるから、売買代金として支払った金額が真実七〇〇〇万円であったとすれば、日新信販から借り入れた金額をこれに合わない九〇〇〇万円にすることは考えられない。

7 原告が圧縮契約に応じることによって税務処理の上で受ける不利益は、売買があった平成二年度の期末までに本件土地等を転売することができれば、帳簿操作だけで処理することができ、損失を回避することができるので、原告代表者の信田はその約束で圧縮契約に応じた。しかし、その期待に反して約束した岩田が年度の期末までに転売させるのに失敗したため、元重は帳簿処理に苦慮したのである。翌事業年度の平成三年六月一四日に、ようやく岩田が、本件土地等を九五〇〇万円で買い取ってくれたが、本件売買契約があった事業年度の決算において、岩田の約束に基づいて購入価格を七〇〇〇万円としたこととの矛盾を解消するため、平成三年度の決算で購入価格を真実の九〇〇〇万円に訂正して法人税の確定申告をしたのである。このように、原告が本件売買の価格を帳簿処理した内容にいくつかの特異な変遷が見られたことについて、完全に合理的な説明がつくので、原告の主張は信用できる。

8 原告がした帳簿処理の仕方に合理的な説明がつくの対して、宮本がした経理処理は合理的な説明がつかず、不合理であるところ、本件売買が圧縮契約だと考えると、すべて合理的な説明がつく。第一に、宮本が原告から受け取った代金七〇〇〇万円の小切手が含まれていたことは客観的に明らかであるが、この点につき、宮本は小切手ではなく現金で全額を受け取ったと証言する。このように、宮本が偽った証言をする動機、理由は、本件取引が圧縮契約だと考えると合理的な説明がつく。第二に、宮本は、右小切手の経理処理に技巧的な取扱いをしている。まず、宮本は、右小切手を換金するのに、通常は自分の口座で換金するはずのところ、わざわざ豊和銀行の別の支店で同銀行自身の口座で換金させた上、これを宮本の口座に振替入金させるという特異な経路を用いている。これは、原告から受け取った小切手が宮本の口座に入金された事実を隠蔽する目的で行ったと理解するのが合理的である。次に、宮本は、小切手を換金したあと、これを出金して宮本の口座に振替入金させているが、小切手を口座に入金した場合、これを出金するには、小切手の交換決済手続を経なければならず、それに三日間位を要するところ、小切手の入金と同じ日に出金させていることが特異である。右銀行が、現金七〇〇〇万円の実質的に宮本の口座に振替えたのは、三日後の平成二年一〇月二二日であった。右銀行の説明では、宮本が強く要請したため入金即日出金の便宜を図ったとのことであるが、なにゆえ宮本がそのような特異な取扱いを銀行に強いたのか不可解であり、宮本において圧縮契約を隠蔽する目的があったと考えて初めて合理的な説明ができる。第三は、宮本が、代金決済の日に、川島及び一紀に支払った現金合計一五一六万円の出所を原告からもらった七〇〇〇万円に見せかけるため、特別の経理処理をしていることである。同月一九日、宮本は七〇〇〇万円を自分の口座に入金させた上、同日、一三〇〇万円を出金させているのであるが、この七〇〇〇万円が豊和銀行中津支店から振替で入金されたのであるから、振込入金を示す「〇八〇」という記号がつくはずであるのにもかかわらず、現金入金を示す「九〇〇」という記号をつけた処理をさせていることが特異である。次いで、一三〇〇万円を現金で出金した外形を用いているが、この一三〇〇万円を宮本が出金できるのは七〇〇〇万円の小切手を右支店で換金手続をした後でなければならない。しかるに、宮本が一三〇〇万円を宇土に渡した時期は、宮本ら関係者の証言で、原告から小切手をもらったその時のことであったから、小切手が換金されて一三〇〇万円の出金があるより前の時期であることが明らかである。なにゆえ宮本が事実と異なった外形を口座に残したかについては、代金が七〇〇〇万円で、その中から一三〇〇万円を支払ったという外形を作ることによって圧縮契約を隠蔽する目的から出たと考えないことには合理的な説明をつけることができないのである。

9 被告は、川島の証人尋問において、売買があった平成二年当時の相場でも代金七〇〇〇万円は高すぎるとの証言を引き出しており、それは、原告主張の代金九〇〇〇万円は相場に照らして法外に高額だから不自然であるという意味であると思われる。しかし、本件売買は、岩田が企画した飲食店ビルの貸店舗事業に供するビルの敷地を購入することから出発したものであるところ、同人に購入資金がなかったことから、原告に資金の提供を求めたという背景があったもので、原告と岩田との前記転売の約束に基づいて岩田が経営するコーシューが原告から買い入れたのであるが、その時の買入金額は九五〇〇万円であった。この金額は原告が購入した価格九〇〇〇万円に登記料その他の経費を上乗せして設定したものである。仮に、川島が証言するように原告が購入した金額が七〇〇〇万円であったとすれば、当然その金額を知っている岩田が、原告から買い入れる時に二五〇〇万円も法外に上乗せした九五〇〇万円を了承したとは考えられない。

(被告の主張)

1 青色申告法人である原告は、法人税法一二六条により、「帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない。」とされているところ、本件土地等の取得価額を証する書類等については、以下のとおりである。

(一) 平成二年一〇月一九日付けの売主を宮本、買主を原告とする土地売買契約書(乙一)によれば、売買価額は七〇〇〇万円であり、原告が宮本から受け取った同日付けの領収書(乙二)にも土地売買契約書と同じ七〇〇〇万円と記載されている。これに対し、原告が主張する九〇〇〇万円という価額を証する売買契約書、領収書等は、宮本及び原告の双方において一切保存されていないことが被告の調査において確認され、また、異議申立て、審査請求の各段階を通じて原告の側からそれらの提示が一切されていない。

(二) 原告が備える振替伝票には、平成二年一〇月一九日、借入金九〇〇〇万円が大分銀行の普通預金に入金され(乙三の1)、平成三年一月九日、右普通預金から七〇〇〇万円が仮払金とされ(乙三の2)、同年三月三〇日、右仮払金七〇〇〇万円が全額事業用土地に振り替えられ、また、借入金と普通預金がそれぞれ二〇〇〇万円減額されている(乙三の1、三の3の2)。以上の振替伝票の起票は、本件土地等の取得価額が七〇〇〇万円であることを自ら認め、これらを取得した事業年度である平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度においてその旨記帳したことを示すものである。なお、原告は、本件土地等を譲渡した本件事業年度の期末である平成四年三月三一日に事業用土地と借入金をそれぞれ二〇〇〇万円に増額する振替伝票を作成している(乙三の4)が、当該振替伝票の起票について、その正確性を根拠づける関係書類等は何ら保存していない。

(三) 原告が、本件土地等を購入した平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税確定申告書に添付された貸借対照表(乙四の1)において、動産不動産勘定の額を一四億六四三六万〇六三九円と計上し、その明細を記載した固定資産内訳書(乙四の2)には、本件土地は、七〇七三万七八〇〇円(取得価額七〇〇〇万円に登記費用等の七三万七八〇〇円を加算したもの)と計上している。当該貸借対照表は、株主総会の承認を経ているものと認められることから、単なる過失や錯誤でこのような計上をしたとは到底考えられず、本件土地等の取得価額が七〇〇〇万円であることを原告自身が自認していたことは明らかである。

2 本件土地等の取引に係る仲介手数料について

原告が本件土地等を購入した際の仲介業者である訴外川島政次は、平成二年一〇月一九日に宮本からの仲介手数料として二一六万円を計上し(乙五)、同日、同額を中津信用金庫の普通預金口座に入金している(乙六)が、この金額は、契約金額七〇〇〇万円を基に計算した法定仲介手数料(七〇〇〇万円の三パーセントプラス六万円)であり、このことも、本件土地等の取得価額が七〇〇〇万円であったことの重要な証左である。なお、本件土地等の取引に際し、実際に仲介等を行い、取引に立ち会ったのは、右川島政次の息子川島巌である。

3 原告の購入資金について

本件土地等の購入資金として、原告は平成二年一〇月一九日に日新信販から九〇〇〇万円を借り入れて大分銀行中津支店の原告の口座に入金し、同日、宮本からの要望により小切手七〇〇〇万円及び現金二〇〇〇万円にして同口座から払い出し、右小切手及び現金を売買契約締結の場所である宮本宅において同人に支払った旨主張する。しかし、現金二〇〇〇万円の授受に関する原告の主張を裏付ける具体的な証拠資料は何ら示されておらず、被告の調査でも把握されていない。また、原告とその借入先である日新信販は、<1>代表者はいずれも信田であること、<2>本件土地等の購入契約及び代金決済に買主側で立ち会っている津留は、日新信販の経理課長であるとともに原告の取締役である等、原告と日新信販の関係は極めて密接であり、借入金の額の増減も容易に可能であると推認できることから、原告の主張のみで本件土地等の購入価格と九〇〇〇万円の借入れとを結びつけることはできない。

4 裏金二〇〇〇万円の支払約束の有無について

信田は、宇佐市内のステーキハウスで岩田から川島の紹介を受けた際、川島が「裏が二で、表が七です。」と言って、代金額は九〇〇〇万円だが書類上は七〇〇〇万円とする圧縮契約を用いることを条件としたので、原告もこれに応じる旨供述する。しかし、川島は、七〇〇〇万円という売買代金自体が平成二年当時の相場からすると五割くらい高い金額であるとした上で、右ステーキハウスで信田と顔を会わせた記憶はなく、売買契約前に売買の件で話をしたことはなく、表が七、裏が二という話をしたこともないと明確にこれを否定しており、また、宮本も同様にこれを否定している。したがって、右ステーキハウスにおいて、宮本に対する裏金の支払約束がされた事実は到底認められない。

5 原告の代金支払状況等について

原告は、平成二年一〇月九日、大分銀行中津支店の原告名義の普通預金口座に日新信販から振込入金された九〇〇〇万円のうち、七〇〇〇万円を大分銀行中津支店振出の保証小切手として、残り二〇〇〇万円を現金で出金している。ところで、銀行振出の保証小切手を他行の普通預金口座等で取り立てる場合、入金は同日付けでできるものの、出金は、本来、その小切手が交換等により資金化されるまではできない。しかし、宮本は、当日、別途、一紀に返還するために調達した一三〇〇万円を補填する必要があったことから、自らの取引銀行である豊和銀行宇佐支店の銀行員に七〇〇〇万円の現金化を依頼した。そこで、その銀行員は、右保証小切手を同銀行中津支店に持ち込んで資金化の手続をする一方、同銀行宇佐支店に連絡して、同支店の宮本名義の普通預金口座に、同日付けで七〇〇〇万円の現金入金処理をした。この点、宮本は、原告側から授受された七〇〇〇万円は現金であった旨証言しているが、甲第一〇号証の小切手の写しに、「宮本隆」と裏書されていること及び豊和銀行における右小切手の取扱い状況に照らすと、宮本は、現金と小切手とを記憶違いしているものと認められる。宮本が現金二〇〇〇万円を受け取ったかどうかについて、宮本及び川島はこれを明確に否定している。他方、元重は、宮本に対して二〇〇〇万円を交付したこと及び代金決済等が終わった後、元重ら原告側関係者が宮本宅の二階から一階に降りる際、宮本がすぐ後ろから現金二〇〇〇万円を右側の小脇に両手で抱えついてきた旨証言しているが、元重とともに宮本宅に赴いた津留は、陳述書(甲八)で、宮本に対して二〇〇〇万円を交付した旨の右証言に沿う陳述をしているものの、代金決済後の宮本の行動については、右証言に沿う陳述をしていない。そして、元重らと共に宮本宅に赴いた坂本は、契約について、契約の金額は真実ではないとか、その契約に裏があるとかは聞いたことはなく、本件購入契約及び代金決済において、一〇〇〇万円を超えるような多額の現金の授受はされなかったと記憶しており、同人の目の前では現金の授受はされていない旨述べて元重らの前記証言を否定している上、審査請求の時点で、「本件土地等の取引に関しては、岩田が一切のことを知っているから、すべて話すように指示した。」という信田の言に基づき、調査を受けた岩田は、契約締結の際は一階にいて、本件購入契約及び代金決済には立ち会っていないので、最終的に確定した本件取得価額が九〇〇〇万円であることは断言できない旨述べていることからすると、前記元重の証言及び津留の陳述書の記載は到底信用できない。

6 宮本が一紀に返還した手付金の原資について

宮本の証人尋問調書に添付された総合口座通帳の写しによって、豊和銀行宇佐支店の宮本名義の普通預金口座の入出金状況をみると、平成二年一〇月一九日に七〇〇〇万円が入金され、即日、一三〇〇万円が出金されている。この七〇〇〇万円は、もともと本件取引で原告から支払われた大分銀行中津支店振出の七〇〇〇万円の保証小切手を、即日、現金入金扱いしたものであることは前述のとおりであるが、このような処理がなされたのは、宮本において、当日、別途、一紀に返還した現金一三〇〇万円の手付金の原資を即日補填するためであったと推認される。この点について、川島は、宮本が手持の現金を一紀に対する手付金の返還に充てた旨証言し、宮本も、豊和銀行宇佐支店の定期預金を担保に一三〇〇万円を借り、これを一紀への手付金の返還に充てた上、即日、右借入金を返済した旨証言しているところであって、同支店における宮本名義の普通預金口座の入出金状況(平成二年一〇月一九日に七〇〇〇万円が入金され、即日、一三〇〇万円が出金されている。)に照らすと、宮本は本件土地等の売却代金七〇〇〇万円とは別に調達していた現金をもって、一紀に対する手付金返還の原資としたことが認められる。この点、原告は、宮本は本件売却代金を現金で受け取った旨証言し、かつ、同日代金の中から一紀に対して以前に交付されていた手付金一三〇〇万円を返還したと証言し、また、同日、川島に対して仲介手数料二一六万円を支払っていること、他方、本件不動産の売買代金七〇〇〇万円は小切手で支払われていることが明らかであることからすると、手付金の返還及び仲介手数料は、右小切手とは別に売買代金として支払われた現金すなわち原告主張の二〇〇〇万円を原資とするものとしか考えられず、宮本の証言は信用できない旨主張するものと考えられる。そして、前述のように、本件土地等の売買代金七〇〇〇万円が小切手で支払われていることは明らかであり、確かに宮本の証言には誤解混乱がみられるが、同証言の骨子は、結局、手付金の返還のための一三〇〇万円は同人が有していた定期預金を担保に借り入れて準備し、仲介手数料二一六万円も現金で同人が売買代金とは別個に準備したと解することができる。前述のように、宮本が、本来、即日現金化の困難な小切手を銀行の担当者に依頼して複雑な処理をして即日現金化しているのは、手付金の返済資金として借り入れた一三〇〇万円を速やかに補填する必要があったからと推測されるのであって、仮に原告が主張するように七〇〇〇万円の小切手とは別に現金二〇〇〇万円を受け取っているのなら、このような処理をする必要はなかったはずである。また、宮本の証言調書の末尾に添付された同人の預金通帳を見れば、度々多額の金銭の出し入れがあり、仲介手数料二一六万円を現金で用意することも困難ではなかったことが理解できる。

7 立証責任について

原告は、本件土地等の取得の際に、二〇〇〇万円を圧縮した帳簿処理のため、虚偽の内容の帳簿伝票を作成し、本件土地等を購入した平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税確定申告書に添付された貸借対照表(乙四の1)に意図的に偽った取得価額を計上したと主張する。しかし、確定申告書に記載したことと異なる事実については、これを主張する原告の側で具体的に証拠資料を提出して立証すべきである。譲渡所得に係る譲渡費用の立証責任については、通常の必要経費の場合と同様、課税庁にあると解されるが、その具体的な事情については、一般に納税者が知ることであって、課税庁としては、納税者の指摘なしに把握が不可能なことが多いから、納税者が課税庁主張の譲渡費用の額を超える額の支出額を主張してその認容を求めるには、納税者の主張額が譲渡費用にあたるとする右の具体的な事情を指摘することを要する。また、税務官庁は、譲渡所得の発生源泉となる各取得及び譲渡取引の直接の当事者ではないから、いかなる相手とどのような内容の取引をしたかについては、納税義務者がその取引に関する正確な記帳を行っていない限り、これを確実に捕捉することは不可能というべきであるから、税務官庁がその調査に基づく一応の立証を尽した以上、税務官庁の認定し得た額を超える多額を主張する原告が、具体的にその支払額、相手方等を明らかにし得ない限り、譲渡所得が原告に帰属するものと認められてもやむを得ない。これを本件についてみると、被告が川島及び宮本を調査した結果、本件譲渡原価は七〇〇〇万円であるにもかかわらず、原告は、本件譲渡原価は、表に出す七〇〇〇万円の他に裏の二〇〇〇万円があり合計九〇〇〇万円であると主張するのみであって、具体的な証拠資料を明らかにしない。原告は、本件土地等の売買契約の際、契約上の売買代金七〇〇〇万円以外に原告が宮本に支払ったと主張する裏金二〇〇〇万円については、確かに原告名義の銀行口座から二〇〇〇万円の現金が出金された事実は認められるものの、当該二〇〇〇万円が宮本に支払われたことを証明する書類はなく、また、原告の主張に沿った証拠は、原告の従業員である元重の証言などすべてその身内によるものであるが、それらの内容を吟味すると、前述したとおり、種々の矛盾点が存するのであって、たやすく借信し難いことに照らすと、原告が、宮本に対し、裏金として二〇〇〇万円を支払った事実は到底認定することができない。

8 本件重加算税の賦課決定処分の適法性

以上のとおり、本件土地等の取得価額が七〇〇〇万円であることは明白であるにもかかわらず、原告は、平成三年六月一四日に本件土地等をコーシューに譲渡した後、何の根拠もなく、決算期末である平成四年三月三一日付けで土地価額を二〇〇〇万円増額する振替伝票を起票し(乙三の4)、譲渡原価の計算において、過大に仮装した取得価額九〇〇〇万円を基に計算した金額九〇七三万七八〇〇円を本件譲渡原価として本件事業年度の法人税の確定申告書を提出したと認められる。このような原告の行為は、国税通則法六八条一項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は、仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。したがって、これらの事実に係る部分の税額を計算の基礎としてされた本件各課税処分は、いずれも適法である。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一ないし三、五、七、八、一〇、一一、一五、乙一、二、三の1、2、三の3の1、三の3の2、三の4、四の1、2、五ないし一一、一三ないし一九、証人川島、同宮本、同元重、原告代表者本人、調査嘱託)によれば、以下の事実が認められ、甲第七、第八、第一五号証、証人宮本、同元重の各証言、原告代表者本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分はいずれも採用できない。

1  不動産仲介業者である川島は、岩田から、同人の妻の弟である宇土が賃貸用の飲食店ビルを建設するための物件を入手したいとしてその仲介を依頼されたことから、宇土に対し、宮本が所有していた本件土地等を紹介した。その結果、平成二年六月ころ、宮本と宇土は、川島の仲介により、宮本が宇土に対して本件土地等を代金七〇〇〇万円で売り渡す旨の売買契約を締結し、宮本は、宇土から手付金一三〇〇万円を受領した。その後、宇土が、飲食店ビルを経営する計画を中止したため、宇土に代わって原告が本件土地等を購入することになり、平成二年一〇月一九日、宮本宅の二階において、宮本と、信田から指示を受けた原告の取締役である津留が、川島、原告の経理事務担当者である元重、信田が別途経営する会社の社員である坂本らの立会いの下で、本件土地等の売買契約を締結した(以下「本件契約」という。)。その際、津留は、宮本に対し、右代金の支払のために、大分銀行中津支店振出の額面七〇〇〇万円の自己宛小切手を交付し、これと引き換えに、宮本は津留に対し、七〇〇〇万円の領収書を交付した。右代金決済後、宮本と津留は、代金額を七〇〇〇万円とする売買契約書及び本件土地等の所有権移転登記手続に必要な書類を作成した。これらの一連の取引終了後、津留及び元重は、宮本宅を出た。その直後ころ、宮本は、同人宅の一階で待機していた豊和銀行宇佐支店の赤松伸泰(以下、「赤松」という。)に右小切手を渡し、赤松はこれを同銀行中津支店に持ち込み現金化する手続をするとともに、同銀行宇佐支店に連絡して、右同日付けで同支店の宮本の普通預金口座に七〇〇〇万円を入金する処理をし、さらに、同日付けでそのうちの一三〇〇万円を出金する処理をした。また、宮本は、同じく同人宅の一階に待機していた一紀に対し、右同日、一三〇〇万円を前記手付金の返還のために交付するとともに、川島に対し、仲介手数料として、右売買代金額を前提にした場合の法定額である二一六万円を支払った。

2  原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の貸借対照表に添付された固定資産内訳書には、本件土地等の期末現在高として、七〇七三万七八〇〇円(内七三万七八〇〇円については登録手数料等の諸費用。)が計上されており、右貸借対照表については、平成三年五月二〇日開催の原告の定時株主総会において承認の決議がされた。

3  その後、平成三年六月一四日、原告は、コーシューに九五〇〇万円で本件土地等を売り渡した。

二  ところで、原告は、本件売買契約の売買代金は七〇〇〇万円ではなく、裏契約の二〇〇〇万円を加えた九〇〇〇万円が実際の売買代金である旨主張し、甲第七、第八、第一五号証、証人元重の証言及び原告代表者本人尋問の結果中にはこれらに沿う部分も存在する。しかし、右各証拠は、いずれも原告の代表者本人と原告の現在あるいは元従業員の陳述を内容とするものであって、客観性に乏しい上、これらの証拠を総合すれば、原告は、本件土地等の買取を打診された際に、原告主張のような裏契約を結ぶと、将来、本件土地等を他に売却した場合に自分の方に税金が課せられる不利益を考えて一旦は断ったとしながら、裏契約であることの証拠を全く残すこともしないまま、結局、裏契約締結により得られる具体的な利益も判然としない状況で裏契約に応じたことになり、極めて不自然というほかない。また、原告は、平成二年一〇月一九日、大分銀行中津支店の原告名義の普通預金口座に日新信販から九〇〇〇万円が振込入金され、そのうち、七〇〇〇万円を大分銀行中津支店振出の保証小切手とし、残りの二〇〇〇万円を現金で出金していることを本件土地等の売買代金が九〇〇〇万円であったとする根拠としており、宮本が本件契約時に、川島に二〇〇万円余りと、一紀に一三〇〇万円を支払った際の原資は、原告が宮本に渡した現金二〇〇〇万円でしかあり得ないと主張する。確かに、証拠(甲一、二)上、本件契約日と同日に、日新信販から原告名義の普通預金口座に九〇〇〇万円が振り込まれ、同日、その内の七〇〇〇万円を小切手により、残りの二〇〇〇万円を現金によりそれぞれ出金されたことが認められる。しかし、原告が二〇〇〇万円を現金で出金していても、その現金が本件契約の売買代金として宮本に渡されたとただちに認められるわけではない上に、前記一1の認定事実によれば、宮本は、右同日、額面七〇〇〇万円の小切手を現金化して自己名義の普通預金口座へ入金処理するとともに、その内から一三〇〇万円を出金処理している事実に照らしても、右二〇〇〇万円と代金決済との関連性は明らかではないのであるから、右各証拠が、本件契約の代金が七〇〇〇万円であったことを認定する妨げになるとは解されない。さらに、前記一で認定したとおり、不動産取引の仲介業者で、本件契約を仲介した川島は、売買代金額が七〇〇〇万円であることを前提とした法定の仲介手数料である二一六万円を宮本から受領しているのであり、このことは、右売買代金額が七〇〇〇万円であったことを裏付けているというべきである。

三  以上のとおり、前記一の認定事実及び前記二の判示内容に照らせば、原告の本件土地等の取得価額は七〇〇〇万円であったと解するのが相当であり、これを前提とした本件更正に違法はない。また、前記争いのない事実及び証拠(乙三の4)によれば、原告は、決算期末である平成四年三月三一日付けで本件土地等の価格を二〇〇〇万円増額する振替伝票を起票し、譲渡原価の計算において、過大に仮装した取得価額九〇〇〇万円を基に計算した金額九〇七三万七八〇〇円を譲渡原価として申告していたのであるから、これにつき国税通則法六八条一項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するとして、重加算税の賦課決定をした本件賦課決定に違法はない。

第四結論

よって、本件各課税処分が違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がない。

(口頭弁論の終結の日 平成九年一一月四日)

(裁判長裁判官 安原清蔵 裁判官 高橋亮介 裁判官 秋信治也)

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